藤前干潟は、名古屋港に流入する庄内川、新川、日光川の河口部に広がる約300haの干潟です。 国内有数の渡り鳥の中継地で、毎年数多くの水鳥が飛来します。シベリアなど北半球の繁殖地とオセアニアなど南半球の越冬地を往復しているシギやチドリの大切な中継地となっています。
ラムサール条約にも登録されており、渡り鳥が多く飛来する場所として大変有名です。
市民とごみの物語
藤前干潟の危機
1981年、藤前干潟をごみの埋立処分場にする計画が発表されました。年々増えるごみに対応するために計画を進めていきましたが、藤前干潟は渡り鳥をはじめ多くの生き物にとって大切な場所でした。そのため「命を思いやる想像力」をもってごみ問題に取り組み、藤前干潟を守りたいとの市民の声が高まりました。
ごみ非常事態宣言と市民の力
「ごみの処理が大切か、生き物が大切か」悩みぬいた結果、「ごみの処理も生き物もどちらも大切」として、1999年1月、埋立計画を中止し、2月にごみを大幅に減らすことを呼びかける「ごみ非常事態宣言」を出しました。
そして、名古屋市中の人々が力を合わせて分別・リサイクルに取り組んだ結果、ごみの量は大きく減りました。この出来事によって、藤前干潟は名古屋市の環境行政の転換を象徴する場所となり、名古屋の環境の「原点」と呼ばれています。
その後、藤前干潟は、たくさんの渡り鳥が休みをとる世界的にも重要な湿地として、2002年11月18日にラムサール条約に登録されました。
1971(昭和46)年にイランのラムサールで開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」において、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が採択されました。この条約は会議の開催地にちなみ「ラムサール条約」と呼ばれています。
その後、この条約は7ヶ国が締約国になり、1975(昭和50)年12月21日に発効しました。この条約は、特に水鳥の生息地等として国際的に重要な湿地と、そこに生息・生育する動植物の保全を促進することを目的としています。
登録までの経緯
伊勢湾にはかつて多くの干潟がありましたが、埋立てや干拓により多くの干潟が失われてきました。藤前干潟の一部も名古屋市のごみ処分場として埋立てることが計画されましたが、自然保護の流れに応じ、市民運動と行政の最終判断によって計画は中止され、干潟を守っていくことが決められたのです。
その後、環境省は藤前干潟を国指定鳥獣保護区特別保護地区に指定し、埋立て、干拓、工作物の設置などを制限することによって干潟を守っていくことにしました。そして、この干潟が渡り鳥の中継地として国際的にも重要であることから、ラムサール条約の「国際的に重要な湿地」に登録されたのです。